あるとき由子ママは自分の作ったケーキを
インターネットで売りたいと言い出した。
わしにいろいろ手伝って欲しいと。

店名はシャムロック(Shamrock)
商品は本格イングリッシュレシピのパウンドケーキ。
由子ママのそれを食べて、わしは初めて
パウンドケーキが旨いものだと知らされた。
logo

ずっしりと重く、ぎゅっと凝縮された甘さと香り。
1.5cmくらいに切ったものが2枚もあれば十分。
今までに食べたものは何だったのだ?
すっかすかのスポンジーないんちきケーキじゃないか。

で、サワヲの記述。

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といっても、小麦粉とクリームだけの、ああいう軽くて、
ただの脂肪と砂糖の塊のようなものではなく、
ドライフルーツやナッツ、ブラウンシュガー(私はマスコバド糖を使う)、
モラセス、ブランデー、などで中身がぎっしと詰まり、ナツメグとシナモンの
スパイシーな香りが漂う、ずっしりと重いイギリスのトラディショナルなフルーツケーキ。
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・・・これだよ!おお、まい!

由子ママは250万円をかけてキッチンをケーキ工房に改造
業務用の厨房機器設備を整えた。
わしはロゴを考え、WEBページを作り、リーフレットを作り、名刺を作り、
電子決済のeコマースを完成させた。手伝えることは全て手伝った。
いろいろと試作をし、一緒に評価をし、商品バリエーションも増やした。
クレーム対処にわしが代理で福岡へも行った。(怖がられた)

結果的に商業的成功はしなかった。むしろ失敗。
価格が高すぎたからである。
しかし、製造原価(材料費)は常識はずれに高かった。安くは出来ない。
採算ぎりぎりの、超薄利商売だったのである。

わしは製造原価を落とすように進言した。
由子ママは首を縦に振ることはなかった。
「そんなもの作りたくないわ。」そういうひとだった。
当時家内にやらせていたレストラン用に小ぶりなケーキを用意してもらい
ドルチェとしてセットに沿え、店頭販売もした。
(ぽつ、ぽつと売れ、好評だったが大売れはなかった)

やがてママは持病が悪化、ついに倒れて還らぬ人となった。
わしは大切なひと、友人であり、お客さんであり、
ともすれば母にも似た感情を持つ相手を失った。
レストランのことも、相手を思うこともたくさん教えてくれた。
何度もパスタを食べに来てくれた。
うるさく、あたたかい、ご意見番を務めてくれた。
超のつく毒舌(わしなど足元にも及ばず)で舌鋒鋭く、皮肉を言い、
頭がよく回転し、楽しく、いつもお洒落で、限りなく優しいひと。

熊本の教会に車を走らせ、棺の中の由子ママにお別れを言った。
ありがとう。
涙が、たくさん滲んだ。
後日村の家で行われた葬儀には出る気が起きなかった。

ママの娘はわしが貼ったShamrockのマークをはがさないまま
数年間日産CUBEを走らせた。
あの頃、今のようにBLOG、マイクロBLOG、SNSが発達普及していたら
TVに出て優雅に笑うのはマダムシンコではなくマダムユウコだったかもしれない。