ドールは元々寿司屋で飼われていた犬で、どういう経緯か親父が譲り受けてきた犬だ。相当イイもの喰って育ってきたらしく、冷や飯に冷や汁ぶっかけたような、当時の典型的な犬飯など見向きもしない。母親が苛立って「この犬は贅沢か!」と吐き捨てていたのを思い出す。おまけに懐かず、従わない。親から散歩を命じられて出かけても、行きたい方向に進めないことばかり。歴代の犬の中でもナンバーテン(最低という英語表現だべ)、好きになれなかった。
ちょくちょく家出をする犬で、1〜2日行方不明なことはよくあったが、ある時1週間くらいも帰って来ない。Ham少年は家の庭で一人遊びをしていた。しゃがみ込み、棒で土(赤煉瓦を細かく砕いたような、粗い赤い砂利だった)に何か描いていたと思うのだが、その最中にふと、好きでもない飼い犬のことを思い出して、もう帰って来ないのかなぁ、などと考えていた。
とっと、ととっと、と(じゃ、じゃという音が混じる)・・・なにかの不規則な足音が近づいて来た。顔を上げた。ドールだ。
痩せこけて毛並みもばさばさとした感じになったドールはHam少年の前まで歩み来ると、そのままバタリと横に倒れた。開いた口から舌をだらりと土の上に垂らし、そのまま息をしなくなった。